帰りたいという患者さん

「家に帰りたいけど、どうしたらよいですか?」

今も全国各地の病院で放たれ続けているフレーズではないだろうか。病院だけではなく介護施設なんかでも聞きなれたフレーズだと思われるが、いわゆる「帰宅願望」である。たとえ認知症でなかろうが、早く帰りたいという入院患者さんは多くおられるし自身も何度も出会ってきた。入院生活自体も窮屈に思う人もいるだろうし、みんな自分の家が一番であろう(喜んで入院する人も中にはいるが…)。

当然全ての認知症患者さんに帰宅願望があるわけではないが、一定数の患者さんで見受けられる印象だ。帰宅願望自体は自然な思いでもあるだろうし実際早く退院できるに越したことはないと思うが、度々問題となるのはその帰宅願望の「程度」ではないかと思う。

認知症の患者さんでも職員からの説明(大体皆上手にそれらしいことを話される)を受けて納得し落ち着かれるような方であれば良いかもしれないが、やはりそんな方ばかりではない。職員の説明に対し、「そんなのおかしい!今すぐ家の者に電話をかけろ!入院費なんか1円も払わんからな!」など、激しめの帰宅願望が出るような方もおられるのが実情である。回復期に転院してきたものの、入院の継続に納得がいかずに家族や支援者の制止を押し切ってブチ切れながら数日で退院された方もおられた(車も運転するとか言っていたが、心配でしかない。家人には推奨しないと医師からも話はされていたが…)。あるいは、特に何か激しく訴えるわけではないが、しれっと病棟を去ろうとする患者さんもおられたりする(家に帰るつもりだったらしい)。ADLがそれなりに高い認知症患者さんあるあるかもしれない。

帰宅願望がゆえに目が離せなかったりと、その程度によっては職員も大きく労力や時間を割かれることになる。したがって、あんまり手がかかるような状況であると病棟看護師さんから白い目で見られたり、「あの人早く退院させてよ!」なんて文句のようなことを言われることもあった。入院調整をしている身ではないので、「なんで入院させた!」みたいなことを言われると困ってしまうが、実際ケアする側は本当に大変だと思うのでいつも頭が下がる思いである。

認知症の患者さんでももちろんだが、やはり「なぜ帰りたいのか」というところに着目することが支援をしていく上で大切な点ではないかと思う。家が落ち着くから、もうどこも悪くないから、家のことをしないといけない、お金のこと(入院費)が心配だから、親族の結婚式が近いからなど、理由はさまざまである。内容によっては、一時帰宅や個別で時間を設けての説明で対応できることもあるかもしれない。見守り体制を整えるなどケアの面での対応ももちろん大切だが、発言の背景を汲み取ってあげることで新たに見えてきたり解決できる問題もあると思う。「帰りたい」という発言だけに限らず、「なぜそのようなことを言われるのか」という真意を追求する姿勢は今後も大切にしていきたいと思う。

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